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― トッピクス ―
※本掲載文書は、一般社団法人「日本メタル経済研究所」に提出された大井文康氏による弊社取材レポート部分を抜粋したものです。(一部編集有り)
非鉄再生原料の多くを中国へ輸出してきた専業問屋は何らかの方向転換を迫られてきた。中国で一部再生原料等の禁輸措置が施行(2018年)される十数年前、環境保全を優先して使用済み被覆電線の輸出を停止させた事例や、同措置が発令される前後から国内ユーザーへ納入している炉前原料と同等な輸出品目に切り替え、非鉄再生原料の中国現地での選別工程を不要とさせているケースなどである。中国輸出から国内ユーザーを重視した非鉄再生原料の供給にシフトさせてきた非鉄専業問屋である埼玉県の大越マテックスの現況と今後の方向性を取材した。
▽上海コロナ・ロックダウンで国内の非鉄スクラップ回収量3割急減
株式会社大越マテックス(三郷本社ヤード=埼玉県三郷市インター南、資本金1,000万円、大越初男代表取締役、従業員7人、売上高21億円:2022年3月期)の営業の元となる非鉄金属スクラップ回収量は、2022年5~7月の月間平均が200㌧前後で新型コロナウィルス感染前の300㌧程度を100㌧ほど下回った。大越社長はこの要因について「半導体不足による自動車、電気、家電、機械など鉄・非鉄金属などを素材とする加工業の遅滞・減産」を指摘し、併せて「ゼロコロナ政策を掲げる中国が上海などの主要都市で実施するロックダウン(都市封鎖)の影響で日系企業の製造拠点が生産に支障をきたし、グローバル化しているサプライチェーンが寸断された。これにより部品等の国内搬入が遅延化している。回りまわって、首都圏の金属加工業者からの非鉄スクラップ発生量急減に結びついている」と分析した。新型コロナ感染症の蔓延対策に伴う大国の政治判断が数カ月を経過する中、国内中堅どころの非鉄金属スクラップ業の回収にも触接影響を及ぼしている。
▽中国の環境保全を優先、低品位スクラップや仕様済み被覆電線の輸出停止
大越マテックスは2000年代当初、日本国内では処理できない低品位の雑品スクラップや使用済み被覆電線の内、機械化処理による銅分回収(ナゲット)の歩留まり性が低い雑線(細径の電子・通信・家電・家庭内配線などが混在)を、割高で引き取る中国の天津、寧波、台州など沿岸部の金属再生業者へ輸出してきた。当時、中国は経済の急成長に伴い再生資源等を日本など近隣諸国から手当たり次第にかき集める状態が続き、その様子が「爆食」と形容されていた。同社の売上高は一時、年間45億円のピークを記録するほどであった。ただし、再生資源に有害物質が混入されていたため多くの回収・選別の現場では環境汚染問題を引き起こしていた。ほぼ並行する格好で、中国では環境保全に対する高揚感が醸成され出している時期でもあった。大越社長は「このような(環境汚染を誘発する再生資源の)中国向け商売は長くは続かない」と考え、雑品や雑線等の中国輸出から商売のベースを安定的な国内メーカーへシフトすることを決断した。 トップの経営判断は売上高のレベルダウンを招き、2010年代後半から2020年前後までピーク時の3分の1、15億円前後まで後退した時期もあった。しかし、最近の資源高を反映したLME銅価格の高騰に円安基調で推移している為替相場を掛けて算出される国内の産銅建値(基準価格)はトン当たり100万円の大台を現出、一時、史上最高値の130万円台を記録した。国内ユーザーへの安定供給を貫いてきた営業方針がLME高と円安という外的2要因によって、同社の2022年3月期売上高は21億円を記録、前期より3割ほど増加した。環境保全を優先し、資源の再生・循環性を重視してきた経営方針が漸く実を結んだ。
なお、中国は2018年末をもって雑品・雑線等の輸入禁止措置に踏み切った。現在のように同社のHPに「非鉄スクラップ回収を通じて循環型社会の確立に貢献する」という企業理念を表明できる端緒となった十数年前の経営判断の先見性を見出せよう。
※出典は日本メタル経済研究所のメタ研ショートアプローチ「ー大井レポートー」より編集しました。
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